江國香織・ロバート・キャンベルの対談を聴いてきた
スポンサーリンク
10月13日、大分県竹田市の複合文化施設「グランツ竹田」のオープンを記念して作家江國香織と日本文学者ロバート・キャンベルの対談があった。
江國香織の著作は正直読んだことなくて名前だけ知っていた。せっかく対談を聴くので予備知識がある程度あったほうがいいと思って、「ホリー・ガーデン」「犬とハモニカ」を読んだ。2つの作品ともどこにでもいそうな人の日常を描いていた。日常を細かく描写してスラスラと読める小説をつくる技術が高い。多くの人に読まれる理由がわかった。
ロバート・キャンベルは最近同性愛であることを公表した「旬」な人なのでぜひ話を聴いてみたかった。アマゾンで検索すると江國香織ら6人の作家と対談していた。
彼の本は読まないまま対談を聴くことにした。
公演中2人の発言を箇条書きにしているので分けて並べていこう。
ーロバート・キャンベルー
- 楽屋に入って弁当が渡された。弁当の中に「テントリ」が入っていた。江國さんが「とり天」じゃないですか?と言って会場が笑いに包まれる
- ロバートさんは20年以上前、九州の大学で研究でしていたとき竹田に来て文献の調査をしていた。最近は来ていなかったが昨年来た
- 「美しい日本」は最近政治家が言うが、川場康成がノーベル賞受賞講演で「美しい日本とわたくし」と言ったのが最初
- ニューヨーク育ち生まれ。NYの景色の美しさはブロックごとに住んでいる人種が違って生活の匂いが違うのが美しい
- 江國さんの作品は人が動く
- 雪がきれいにつもっている、とは日本語独特の表現。反対語は醜いではない
- 誌、絵、音楽はつながっている
- 寒々しいと寒いは違うのがおもしろい。若々しいと若いも違う。「ロバートさんは若々しいですね」とよく言われるが嬉しくない。(笑)若々しいという言葉は好き
- 人と人との間に芸術がある
- ロバート&江國の初対面で、江國さんが「日本語の外に立ちたい、シャッフルしたい、揺らしたい」と言っていた
ー江國香織ー
- 普段は東京にいるから自然に接していない。竹田は空気がきれいだからいい。東京の路地裏の匂いは良い匂いではないけど、生活の匂いするか好き
- ヨーロッパはもともとアーティストは職人
- 小説を書くときに難しいのは時間を流すこと。時間が流れないと小説ができない
- 機械オンチなんです
- 長編小説だと同じ場面が続くと飽きるので変える。細かい描写が好きだが続くと抑揚がなくなるので相手との会話に変えたりする
- 絵本を書くのは大好き。絵が最初にあって言葉を付け加えるパターンもあれば逆もある。絵が先にあるほうが好き。文章が先だと絵本のテイストに合わない文ができるから
- 子供向けの本が作家としてのスタート。作家の先輩「はいたに」さん「いまい」さんと飲み食いしながら学んだ。自分がそういうことができた最後の世代。今はそういうことない
(感想)
ロバートさんが話を先導して江國さんが答える形式だった。ロバートさんはメディアにも頻繁に出演されているそうで、大勢の人の前で話すことに慣れていた。江國さんは人前で話すのは苦手そうで、シャイな印象を受けた。ロバートさんが70%くらい喋っていた。
対談のタイトルが、「ー消えゆくものものと、芽吹くものー竹田で出会う美しい日本トークイベント」だった。高尚なタイトル。
竹田がタイトルに入っていたので、竹田に縁がある水墨画作家、田能村竹田の水墨画を中心に話が進んでいった。田能村竹田のことはよく知らなかったのでどうなるかと思ったが、知識がない人にもわかるような話をしてくれた。
最初に田能村竹田の自画像が登場して、ロバートさんが「この絵をみてどう思いますか」と江國さんに聞いた。江國さんは「女性的ですね」と答えていた。僕としては、体育座りのように座って、扇子と徳利?みたいなのが下に置いてあって、左手が外側に向いていたので「飲んでるから俺に構うな!」にみえた。ロバートさん曰く正解はないそうだ。
その後2〜3枚の水墨画がスクリーンに映し出された。山水画は、山が屹立し遠近法を使わず色で表すらしい。素人がみてもよくわからないが、「スロールッキング」ゆっくり画をみるとわかってくるそうだ。ロバートさんが紹介してくれたお陰で少し理解できたのはあるが、確かにじっと眺めると船、東屋、竹でできたガードレールがみえてきた。ロバートさんは田能村竹田は柔らかい画を描くから好きと言っていた。
馬場竹琴
田能村竹田の山水画より、19世紀の画家馬場竹琴(ばばちくきん)の「雅会小録」(雅の会の小さな記録)が面白かった。
竹琴は広島県尾道市の出身で画家志望の青年だったそう。雅会小録では詩や画家の大物先生たちと会って飲んだことが画で紹介されている。
漢詩の偉い先生が尾道にやってきて接待する様子では、先生が上座、尾道の金持ちたちがその横に座っており、竹琴は下座に座っている様子が描かれている。ゴッホが田舎町にやってくるような感じらしく、田舎にいる竹琴にとっては相当嬉しかったそう。
他にも、机に譜面を置いてみながらギターのようなを楽器を弾く男、床に紙を置いて絵を描く男、紅葉の木に紐を引っ掛けて鍋を結び芋煮をする様子の画が紹介された。
もちろん竹田市での対談ということで田能村竹田も「雅会小録」に登場する。
京都の川沿い(多分鴨川)にあるお座敷(《江國談》ビアガーデンのよう)で酒を酌み交わす画の中にでてくる。登場人物には、前髪(京都では子どもの労働者のことを言う)尾道の金持ち(今で言うパトロン)ら、田能村竹田、もちろん竹琴も描かれていた。田能村竹田は上座に座り正面を向いているが、竹琴は後ろ姿が描かれているだけ。ロバートさんいわく、自分がみた宴会の様子が描かれているので後ろ姿だそう。
田能村竹田や尾道の金持ちはスケジュールが詰まっていて忙しい。忙しい時間のなかに暇をつくって酒を飲む。そのことを「半日の間」と言うそう。江戸時代には最高の贅沢で自由な時間だったそうだ。
江國さんは、この画はみなが組織に属しておらずゆるやかにつながっている様子が羨ましいという趣旨の発言をされていた。
僕は、竹琴の画をみて、自立して自分の人生を謳歌しているようにみえた。画を描くことが好きで好きでたまらなかったのかな。画もゆるい感じで書かれていて自分好みだった。
雨のことば辞典
江國さんが紹介した本。
色々な雨の言い方を紹介している。ニセの雨のことを「ぎゆう」と言うそう。「ぐっしゃぐっしゃ」と言うのは大分県日田市の方言で、雨がひどく降ることを言う。「ししらぶる」は大分県玖珠の方言で、雨が細かくくすぶる様子のことを言うと紹介してくれた。
僕らは普段「しとしと」「ざっと」「激しく」「強く」とか限られた表現しか使わないが、雨が降るの様子を表すのにこんなに言葉があるのだなと。表現が増えると人生が豊かになる。
江國さんイチオシなので買って読んでみよう。
ロバートさんと江國さんの発言で最も印象に残ったこと
最後にロバートさんが「田能村竹田に送るメッセージはありますか?」と江國さんに聞いた。江國さんは少し考えて、「私は誰に対してでも送るメッセージがない」と言った。ロバートさんも「私もなんです」と笑いながら答えていたのが非常に印象に残った。
誰かにメッセージを言う人はろくでもないと思うし、大きなお世話だ。多様性と個が重要視される社会ではメッセージを伝えることは無意味だし、有害だと思う。
この発言で一気に江國香織が好きになった。
最後に
久しぶりに文化的な場に行けて充実した時間を過ごすことができた。田舎にいると文化がないので文化を感じられる場があれば迷わず行く。
ロバート・キャンベル、江國香織は都会生まれ育ちだから都会的で洗練されていた。服装は華美じゃないけど自分に合う服装を自然と着こなし落ち着いていた。
ロバートさんは対談の最中、プライベートに触れることはなかった。当然といえば当然だが。
「グランツ竹田」は中でならどこでもwifiが使えたのはよかった。しかも接続したらそのまま使えて速度も結構早い。
竹田に遊びに行く際はグランツ竹田に行ってwifi使うといいですよ。