百姓日記

百姓をやるために田舎で生活しています。

新規就農者が全滅するわけ

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政府の規制改革推進会議

 

内閣府によると専門委員の一人が「新規で個人で就農した人は頑張っても、みんな全滅している」と指摘。その上で「個人の努力よりも企業参入を進めたほうがいい」との意見が出た。別の委員からは、企業参入に関連して「農地に関しても抜本的に考え直すべきではないか」との意見もあったという。

政府の規制改革推進会議で行われた中で出た意見。ツイッターの意見であるように「なぜ新規就農が定着しないか考えている」節がまったくない。個人の努力不足・能力不足に転嫁するだけで 、企業参入すればなんとかなると思っているのが無知。農業システムを知らず現場を知らない無能な「規制緩和することしか頭にない自称専門家」が農政に携わるから農業はここまで衰退してきた歴史を繰り返している。いやー何度書いてもいいくらい無能な専門家だな。

農地に関して抜本的に考え直すのはその通りだけど、企業中心の規制緩和会議じゃ農業を完全に破壊するどころか日本を焦土と化す。人は食べないと生きることができない当たり前のことがわからない連中だ。食料安全保証は保守的になるべきだし国民の安全、国家を壊そうとする連中が農政を動かそうとすることに怒りを覚える。

新規就農者が全滅しているのはこういう無知無能で国民と国家のことを一ミリたりとも考えない輩がいることも影響している。

新規就農が難しいわけ

輩たちのことは別として新規就農が難しい理由を現場レベルから挙げよう。

1 地主に絶対的権限がある

2 莫大な投資

3 自然災害

4 販路

5 村落共同体との関わり

大きくまとめるとこの5つとなる。

1 地主に絶対的権限がある

上記の政府規制改革会議において、農地に関して抜本的な改革が必要と発言しているのがこれに当たる。現在の農地法は地主(農地所有者)の権限が絶対的で、何をしようが地主であるだけで神様みたいな存在になっている。地主は所有する農地を耕作せず、荒れ放題にしても税負担は非常に小さく、罰則は一切ない。

放棄された農地を新規就農者が借り、作物が実る肥えた畑になったとしても「農地返して」と言われたら返すほかない。それが収穫間近であれ、来作の植え付け最中であっても、地主に「返せ」と言われたら返すほかない。耕作の意思がまったくなくとも。

現行の農地法では地主が新規就農者へ農地を積極的に売買・賃貸するインセンティブが皆無だ。行政が介入して地主にメリット(金)があるようにするか、先祖代々続いてきた農地を荒れ放題にしたくない、という個人の思いでしか動いていない。そもそも農地を所有できるのは農業に従事している人しかできないのも理由だ。

2 莫大な投資

新規就農者は、土地を購入・借りることが難しい状況でまとまった農地を確保するのは針の穴を通すより難しい。難しいというより今の農業世界では無理だ。ノーチャンス。

そうなると、「少ない面積で効率的に経営ができるようにするためにはどうすればいいのか」という発想になる。農業者も行政も同じように。少ない面積で効率的な経営をするにはハウスで長期栽培をやるのが一番だ。

仮に2反トマト栽培をするとして、強い風雨に耐え、自動開閉・潅水、剥離土耕or養液栽培の良質なハウスだと約3000万円。新規就農者にそんな投資はできないので、補助金を利用することになるが、それでも1000万くらいは負担することになる。1000万ならまだマシなほうで2000万かかる人もいる。

中古のハウスなら相当投資額は軽減できるが、それでもトラクター、諸々機械類に投資することになるので1000万単位で投資することになる。

利益を出すのが簡単ではない世界で、これだけの借金を背負いやっていくのは体力、気力、知恵が揃ってないと厳しい。揃っていたとしても天運がなければ続けることは困難だ。

3 自然災害

大型化して威力が強くなる台風、夏の酷暑、記録的な大雨、地震と災害が毎年発生している。気候変動により脅威は強くなると考えられる。自然災害が起きればどうしようもない。どれだけ対策をしてもダメになるときはダメで祈るほかない。国や農協関連の補助制度はあるとはいえ、100%補償してくれるわけではない。システムを知っている人であっても原資がなければ廃業せざるを得ない。

新規就農してようやく収穫ができるときになって災害により壊滅してしまった声はリアル、ネットともに知っている。気の毒としかいいようがない。どうしようもない。それで辞めるとなったとしてもかける言葉はない。明日は我が身であり、本当にどうしようもない。それが農業の一部であると思っている。

4 販路

作物をつくる技術はやればやるほど身につくが、売り先だけはやるだけでは確保できない。農家で、販路に困ったことがない、販路より作物をつくるほうが難しいという人は本当にすごい。代々の農家ならそういう声は聞くが、新規就農して販路に困っていない人はみたことがない。もしいるなら頭を下げて教えを請いにいく。

全くの素人が売れる野菜をつくって販路を確保するまで頭回す暇はない。まず商品になる野菜をつくるのが第一。優秀な新規就農者は別なのかもしれないが、僕のようなボンクラは売り物になる作物をつくるまで相当時間がかかった。その間販路をどうやろうとか考えることできなかった。既存の農家に教えられた売り先にとりあえず売るだけで独自の販路を探せるような頭はなかった。

5 村落共同体との関わり

農業をするだけならほとんどの新規就農者は食べていくことができる。作物をつくれる技術を身に着け、販路をみつければいいだけのことだから。農業は農業をするだけではない。水を管理する人たちとの付き合い、地主との付き合い、近所との付き合いも含めで農業なのが厄介だ。人口減少が止まらず地域社会が衰えてきているとはいえ、村落共同体の機能はまだ色濃く残っている。

21世紀の日本、グローバル社会では考えられない、慣習、風習、制度が村落共同体では続いている。今の感性で育ってきた若者、特に都市部の若者が村落共同体で生活を続けていける率は高くない。田舎で育った自分ですら不明瞭で時代錯誤な村落共同体のシステムには嫌悪しているしついていけないし理解できない。

村落共同体の慣習などは都道府県、市町村、山か海か、高齢化率によって違うので、行って住んでみないことにはわからない。

農業がうまくいっていたとしても、村落共同体での立ちふるまいを間違えれば、続けることは絶望的になる。明らかにおかしいことでも、共同体に勝つことはできない。数百年に渡って蓄積されてきたシステムを変えるのは時間がかかる。現地住民が高齢化と少子化によってマイノリティになり、新しい構成員で共同体が運営されるようになれば変わる可能性はある。ただ、それも最低でも10年、20年は必要になるだろう。

新規就農は簡単ではないし勧めないがなんとかなる

新規就農する環境は少しずつ整いつつあるが、農業未経験で農業で食べていきたい人へのハードルは高い。国と行政との関係も密接なので長くやればドロドロとした政治も経験することになる。構造的変化は起きるだろうが、まだ時間が必要だ。

新規就農をしたいと相談する人には農業は楽しくていいですよ、とは言わない。収入は不安定で何が起こってもおかしくない世界で簡単に勧めたりできない。勧めるほうが裏があるんじゃないと思ってしまう。

ただ、簡単じゃないけど、希望はある。

「自分はみんなと同じ生き方はできない。会社勤めは絶対にできない。自分で生きるしかないけど、弁護士や医者、IT分野で起業するような努力も能力もない。でも自分でなんとか生きるしか俺にはできない」というような理由があればできる可能性は高い。〇億円稼いでとか規模拡張して地域のリーダーになるとか、わかりやすい成功者になるではなくて、自分と家族くらいは食べていけるような生き方はできる。

もちろん経済的に成功する可能性もある。新規就農して大豪邸を建てベンツに乗り、雇用を生み出し、地域の盟主になるような成功者は出たほうがいいと思っている。万人にわかりやすいメッセージになる。

「自分でやっていくいくしかない」状況、思い込んでいるなら、とりあえずまずやって、自分を知ればなんとかやっていける。良いことも悪いことも含めて受け止めることが少しずつできてくる。

地主、お金、災害、販路、村落共同体と新規就農してぶつかるであろう壁はなんとかなる。なんとかならない場面はあってもなんとかなると思っていればなんとかなる。離農したとしてもなんとかなる。知恵を使えばなんとかなる。

向こうからやってくる困難・どうしようもないことも含めて楽しむ気持ちでいよう。最後は精神論になってしまったが、気持ちの持ちようがなんだかんだで一番大事だ。身体ももちろん大事。心身を中庸に保つことができればなんとかなる。なんとかならないときはそのときだ。

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